●南武線ワンマン運転化、3月15日の実施直前まで不覚にもそのことを知らずにいました。
実施されたとはいえ「南武線のワンマン運転化の中止を求める川崎市民連絡会議」と足並みを揃えるべく、中原区でも見直しを求める会の設立に向け、あちこちに声をかけたのですが、引き受け手は現れず。あまり引き延ばすわけにもいかず、5月初め、とりあえず会を立ち上げました。
入会届をつくり、署名集めを始め、スタート集会として学習会を計画しました。
そのスタート集会を、安藤陽埼玉大学名誉教授を招いて6月1日に実施しました。
62名の参加で、充実した学習会となりました。
●以下講演要旨をかいつまんで。
1.福知山線事故から20年、教訓は生かされているか
◆鉄道事業は命を運んでいる(1991年5月の信楽鉄道事故の遺族の言葉)
◆安全は輸送業務の最大の使命(国鉄綱領)
◆運転士管理手法である「日勤教育」は、会社と対立する組合員への統制(「産経新聞」2025年4月21日付社説)
◆事故1か月後の2005年5月25日のNHK「クローズアップ現代 置き去りにされた安全~検証JR脱線事故」に安藤氏出演。直接の事故原因は速度超過による転覆脱線、遠因として国鉄分割・民営化、利益優先の経営を指摘。
◆安全確保の努力はなされているか
・JR西日本:8年前、東海道・山陽新幹線「のぞみ」の台車枠に亀裂
・JR東日本:東北新幹線で走行中に二度連結が外れる
・JR東日本:2025年、線路折損パンタグラフと下線破損・切断、新幹線列車分離事故、協力会社員の墜落・死傷事故、5/22パンタグラフと架線の損傷事故(山手線50編成のうち21編成がパンタグラフを破損)
◆ハインリッヒの法則:1件の重大事故の背後には29件の小さな事故、その背景には300件のトラブル・ヒヤリハットが存在する
2.鉄道ネットワークの在り方
◆2021年8月 23道県知事「地方のネットワークを守る緊急提言」
◆2022年5月 28道府県知事「未来につながる鉄道ネットワークを想像する緊急提言」
◎上記提言をきっかけに国土交通省は有識者検討会を設置。ローカル鉄道の在り方に関する提言を公表。
◎鉄道事業者と地域の共同による地域のモビリティの刷新に関する検討会「地域の将来と利用者の視点に立ったローカル鉄道の在り方に関する提言~地域戦略の中でどう生かし、どう刷新するか~」2022年7月⇒ローカル線をターゲットに、政府主導で路線の見直しに着手
◆2025年4月9日、29道府県知事が「全国的な鉄道ネットワークのあり方に関する特別要望」を首相と国交相に提出
<「特別要望」の内容>
①国の在り方を見据えた鉄道ネットワークの位置づけを明らかにすること
②分割・民営化の経緯等を踏まえ、ローカル線の維持に関するJR各社での内部補助の考え方を示すこと
③広域的なネットワークの活性化に向け国として、ローカル線の利用促進の取り組みを支援すること
④被災路線の早期復旧のために支援を行い、安易に存廃の議論を行わないよう国の責任において鉄道事業者に対して指導を行うこと
<「特別要望」の特徴>
- 過半数を上回る知事が賛同
- 鉄道ファンを自認する石破首相は要望書受け取りの際、「鉄道はネットワークとして繋がっていることが重要」と述べる
- 国鉄分割・民営化の取り決めなどに遡り、鉄道ネットワークの維持や内部補助の視点から、国の責任においてローカル線利用促進と被災路線に対する早期復旧めざす支援を自治体からも要請
◆交通政策基本法(2013年成立・2020年改定)における国の役割・責任をどのように評価するか
3.JR東日本は公共交通としての鉄道事業を希薄化
◆鉄道事業と生活サービス事業を二つの柱としてビジネスモデルを提唱
◆発足当時の運輸事業対関連事業は9:1、2017年7:3,2027年目標は6:4とシフト
◆JR東海以外のJR各社は、赤字ローカル線の見直しによるコスト削減を図っている
◆駅の無人化、ワンマン運転などは、ローカル線のみならず大都市圏でも
3.ワンマン運転の導入
◆導入の理由(JR東日本ニュース)「ワンマン運転を拡大することにより、人手不足や社員の就労意識の変化などに対応し、鉄道をより効率的でサスティナブルな輸送モードに変革していきます。またこの施策の推進により社員の就労意識を『人ならではの創造的な仕事』へシフトさせていきます。」
◆ホームドア・可動柵があればワンマン運転は可能か
ワンマン運転導入にはホームドアが必須だが、十分条件ではない。
◆「『人ならではの創造的な仕事』へシフト」と言っているが、人による安全対応こそが「創造的な仕事」ではないのか。
5.公共交通の在り方を交通権保障の視点から考える
◆国民の移動する権利としての交通権=基本的人権から考える。
◆日本国憲法第22条(居住・移転及び職業選択の自由)、第25条(生存権)、第13条(幸福追求権)などと関連する人権としてとらえる。
◆交通権学会は1998年「交通権憲章」を提起し、「平等性の原則」「安全性の確保」「利便性の確保」などを掲げている。
●全編同感です。「特別要望」などは、新たな頼もしい動きですが、直接読んで見なければ。
また私は、仮に人手不足を前提にするとしても、合理化する対象が車掌や運転士だとは思いません。合理化対象を考える先が間違っています。その点でも安藤先生の「人による安全対応こそが創造的な仕事」に、強く共感します。
「交通権」の確立も必須です。安全性や利便性が確保されなければ、多くの活動も基本的人権も成り立たなくなります。(2025.6.1)