●私は公共職業安定所を定年退職後、法政大学の大学院に通いました。ここで博士課程前期を終了。その後中央大学で博士課程後期を過ごしました。途中で川崎市長選挙への立候補があったり、県議会議員になったりして、結局は単位取得退学に至りました。よって博士論文は未完のままです。
この時の指導教官松丸和夫教授が、今年3月で定年退職を迎えます。最終講義が1月11日、昨年から日程を確保して講義に臨みました。
テーマは「市場経済と公正―社会政策とは何か」
様々な系譜を経て、日本で社会政策を学問的に体系づけたのは大河内一男です。社会政策の本質を「国家による労働力保全政策」としました。
「個別資本は短期的な利害関心から労働力を摩滅しかねない(原生的労働関係)。それを防止するのが『総体として資本=資本主義国家』の役割となる」(久本憲夫「社会政策」『日本労働研究雑誌』621号2012年4月)。
●と、ここまでは学生時代にもなじみがある話でした。今回はここに公正取引法の「公正かつ自由な競争を促進すること」を「国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的」として用いています。
サプライチェーン全体での円滑な価格転嫁を実現するため、公正な取引の観点から下請法の見直しを提起しているのです。
下請法改正の方向性を多岐にわたり提起しています。(これは公正取引委員会の整理です)
(1)下請け法の適用基準の追加
現行は「取引内容」と「資本金の額」ここに「従業員数」を加え、製造業では300人以下、役務提供委託の場合は100人以下を適用対象とする。
(2)買いたたき規制の見直し
親事業者が一方的に下請代金を決定して下請事業者の利益を不当に害する行為を下請け法の規制対象とする。
(3)下請代金等の支払い条件に関する見直し
①手形は認めない。
②金銭以外の支払い手段(電子債券・ファクタリングなど)は、支払期日内に満額現金と引き換えることが困難であるものは認めない。
(4)発荷主が運送事業者に対して物品の運送を委託する取引も、新たに下請法の対象取引とする。
(5)報復措置禁止規定の対象となる申告先として、各事業所管省庁主務大臣を追加する。
(6)その他・下記のことが検討されている
①「下請け」という用語が対等でない関係を想起させることから「下請け」という用語を改める。
②支払代金の減額の場合、減額分の支払いについても遅延利息の対象とする。
③交付が義務付けられている書面につき、下請事業者の承諾なくして電磁的方法により提供することができるようにする。
●社会的市場経済、オルド自由主義と社会政策
「必ずしも望ましくない格差などの結果が生じた際に、市場活動の結果を補正するために必要不可欠な政策として明示的に位置付けており」
「国家の役割は、単に市場経済の機能を発揮させる目的での経済政策のみでは不十分であり、さらに社会政策によって社会的価値の実現をめざす必要がある」
(黒川洋行「ドイツ社会的市場経済の理論と政策―オルド自由主義の系譜」関東学院大学出版会2012)
●経済のグローバル化時代のサプライチェーン
*2011年3月、国連人権理事会承認の「ビジネスと人権に関する指導原則」を受け、ドイツ政府は「国別行動計画」を策定。
*ドイツの2023年1月施行のサプライチェーン・デューデリジェンス法:サプライチェーンにおける事業者の人権と環境への配慮義務を求めている。
●社会政策は、私が学んだ頃は「労働力政策」と言っていい内容でしたが、下請法も視野に入れ、「ビジネスと人権」が問われるまでになったんだなと感慨深いものがありました。
懇親会では、全労働の時代の仲間や博士課程前期を学んだ相田ゼミの仲間と、さらに議員になってから知った建設組合の方と久しぶりのお話ができました。(2025.1.11)