●1972年の懲戒処分を不服とした元県職員が、神奈川県人事委員会に申し立てた不服審査が45年も放置された挙句に、今年3月に棄却されました。
その棄却に対し「45年間要したのは違法」として裁決の取り消しを求めた訴訟について、横浜地裁は、県に裁決の取り消しと20万円の損害賠償を命じました。
県はこれを不服として控訴するというのが、11月22日に急遽提出された議案です。
●「この判決は事実の誤認及び法律判断に誤りがあるものと認められるので控訴する」というのが控訴理由です。
あまりに唐突な提案、しかも異常に長い期間を経た事案なものですから、共産党議員団は議案に示された内容だけでは判断しがたく、判決文その他様々な調査を行いました。
その結果、知事・県当局が処分理由書を長きにわたり提出しなかったことが大きな要因であり、県人事委員会規則第16条に照らして「時機に遅れた主張として排斥することが相当」とする判決は動かしがたく、控訴すべきではないというのが私たちの結論でした。
●22日の本会議では藤井議員が、綿密な調査の下に質疑を行いました。なぜ処分理由書を提出しなかったのかを問うと、当局は「審理の促進を求める意思表示がなかったから」という責任転嫁の答弁。つまりは「督促されなかったから」ということです。人事委員会からは反省の意が示されたものの、知事・県当局からは上記以上の内容は示されませんでした。
●同日に行われた総務政策委員会には、共産党委員はいません。委員会審査でも控訴理由とした「事実誤認・法律判断の誤り」以上の内容は明らかになりませんでしたが、審査結果は議案を認めました。
●29日はその本会議裁決に先立ち、私が委員会審査結果に反対する討論を行いました。(内容は以下の通りですが、お急ぎの方は飛ばしても)
本会議採決でも共産党を除くすべての会派が賛成しました。新聞の記事と議案以上の内容を把握した結果の態度表明だった方はどれだけいたのでしょうか。(2017.11.29)
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反対討論 2017.11.29 君嶋
私は、日本共産党神奈川県議団を代表して、定県第85号議案「損害賠償請求訴訟の判決に対する控訴について」に対する所管常任委員会の審査結果に反対する立場から、意見を述べます。
本年11月15日の横浜地裁判決は、神奈川県人事委員会の審査請求を棄却する旨の裁決を取り消すこと、及び原告に対し20万円その他を支払うことを言い渡しました。
これに対し、定県第85号議案においては「この判決は事実の誤認及び法律判断に誤りがあるものと認められるので控訴する」としています。
22日に行われた本会議及び委員会においては、「平成18年に取り下げないことが明らかだったとしている点が事実誤認」、「時機に遅れた主張として排斥すべきという事が法律判断の誤り」との答弁がありましたが、この限りでは控訴する明確な根拠が示されているとは言えません。
一点目の事実誤認という解釈についてです。
判決文によると、神奈川県人事委員会は約34年経過後の2006年1月、初めて原告との面談を行い、続く同年12月の面談で、原告から審理の促進を望み、長期間放置した事実を受け止めてほしいとの表明があったことをもって、「原告らに審査請求を取り下げる意向がないことがほぼ明らかになった」としています。
原告が審議の促進を求めている以上、取り下げの意向はないと受け止めるのは当然であり、取り下げを期待する余地はないと思われます。
次いで二点目の「時機に遅れた主張として排斥すべきという法律判断が誤り」と県が主張している点についてです。
判決は、1972年当時、多数の審査請求が申し立てられる状況にあったこと、その後、知事の交代などに伴って事案の取り下げが少なからずあった等の状況をくみ取っています。それ故、知事が処分理由書を提出しない事態が長期間にわたっていても、それをもって、相手方の主張を認めたとみなすことができるとする旧規則24条の適用は、直ちに求められていた訳ではないと斟酌しているのです。
そのうえで判決文は、2006年面談の時点で、審査請求受理から既に約34年も経過しているのだから、どんなに遅くとも、同日以降速やかに審理を開始し、相当な期間内に裁決すべきであったと述べています。
それにもかかわらず、さらに約5年もの期間を経た2012年4月25日に至って、ようやく知事に答弁書の提出を通知したという経過を問題とし、委員会規則16条に基づき「時機に遅れた主張として排斥することが相当であり、このような審理に基づいた裁決には瑕疵が認められ、違法と評価せざるを得ない」としているのです。
様々な事情を考慮してもなおかつ許容範囲を超えていたとする判断は重く受け止める必要があります。このような状況の中で、なお「法律判断の誤りである」と県が主張するならば、およそ人事委員会規則16条を設けた意義を失わせてしまいます。
このように、判決要旨を覆すような明確な事実と論理は、本会議及び委員会審議の中でも到底示されたとは言えず、神奈川県が控訴する大義を見出すことはできません。
また、「45年間にわたり審理を長期化させたことについては反省する」との一定の認識を人事委員会は示していますが、知事・県当局に至っては、「督促がなかったから処分理由書を提出しなかった」という不誠実な態度に終始しています。
判決は、「通常では想定し得ないほど著しく長引いた」とし、地方公務員法や県人事委員会規則に照らして違法といっているのです。この状態を招いた大きな要因は、知事・県当局が理由書の提出をしなかったことにあります。このうえ、控訴など行うならば、当該元職員にさらなる苦痛を強いるばかりではなく、神奈川県に対する県民の信頼さえ損ねてしまいます。
これ以上引き延ばす対応は慎まなければなりません。
また踏まえるべきは、神奈川県の人事行政のあり方です。不利益処分に対する審査請求は、専門的・中立的な組織である人事委員会が適正かつ迅速な審理によって、職員の利益を適切に保護しようとする制度です。
この制度趣旨をしっかりと踏まえ、また45年という長すぎる時間を強いる結果を招いた問題点を改め、適切な人事行政を行う姿勢を内外に明らかにすることが、今後神奈川県に求められる態度、さらには行政にふさわしい態度です。
以上の点から、神奈川県は控訴せず速やかに判決を受け入れることを求め、定県第85号議案についての所管常任委員会の審査結果に反対する討論と致します。
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