「アダルトビデオは女性差別・女性への暴力」と題する学習会を行いました。
「黒岩知事の人権侵害を無かったことにできない女性たちの会」主催です。講師は中里見博さん(大阪電気通信大学人間科学研究センター教授)。
●以下主な内容を紹介します。
<性売買としてのAV>
現在、殆どのAVの撮影では、実際の「性交」が行われている。女優は、対価を受け取って「不特定多数」の男性と「性交」をさせられており、売買春が行われている。
<表現の自由以前の問題>
*刑法175条「わいせつ物頒布罪」は、ポルノ小説(わいせつ文書)とAV(わいせつ図画・記録媒体)を同列に扱っているが、「頭の中の空想」と生身の女性に性交させることは決定的に違う。
*AVは「性差別・人権侵害行為」vs「その規制」の問題であり「表現の自由」以前の問題。
<性売買とは>
*人が他人の性を買う行為、及び両者を仲介する行為(=金銭の力で女性の身体を性的に使用する行為)。
*仲介者が産業化し、被売春者を管理・コントロールしていることが多い。
*性売買には「売買春」「性風俗営業」「AV(実写ポルノ)の制作」の3つの形態がある。
<「性暴力」の手段と種類>
手 段 | 種 類 |
暴行・脅迫 | 強制性交、強制わいせつ |
公的地位・権力の濫用 | セクシュアルハラスメント |
私的な関係・権力の濫用 | DV、デートDV、子どもの性虐待 |
金銭の力の濫用 | 性売買(売買春、風俗営業、AV) |
その他逃れられない状況の利用 | ちかん、のぞき、露出 |
<売買春とAVの比較>
買い手 | 仲介者 | 買われる人 (売り手) | ||
支払者 | 性行為者 | |||
売買春 | 買春者 | 買春者 | 買春・性風俗営業者 | 被売春者 |
AV | 消費者 | 男 優 | メーカー・プロダクション | AV女優 |
<日本は性売買容認社会>
*「性交」させる売買春:売春防止法で禁止。売春業者を処罰。だが、個室付き浴場の合法化により事実上黙認。
*性交類似行為などをさせる性風俗:風俗営業等適正化法で、性風俗関連特殊営業として合法。違法な性交をさせる場合も多い。
*AV制作:制作自体は合法。刑法「わいせつ物」に該当しなければ販売可能。(児童ポルノ禁止法の「児童ポルノ」は例外)
実態としてはほぼすべて、違法な性交が行われている。
<AV出演被害防止・救済法とは>
目的 | 全ての年齢・性において被害の防止・救済をする |
契約 | 契約締結時契約書等を交付し、内容について説明する |
撮影 | ・契約後一カ月は撮影してはいけない ・撮影時には出演者の安全を確保する ・意に反する性行為は拒絶できる |
公表 | ・公表前に映像を確認できる ・撮影終了から4カ月は公表してはいけない |
契約 取消 | 公表から原則一年間は、無条件に契約を解除できる |
罰則 | 不実告知または威迫・困惑行為は、3年以下の懲役または300万円以下の罰金 |
問題点:売春防止法で禁止されている「性交契約」を認めている。
<ポルノ形態の変遷>
メディア | 性 質 | 形 態 | 女性 | |
フェーズ1 | 文書・絵画 | 仮想的ポルノグラフィ | ポルノ小説 ポルノ絵画 | 使わない |
フェーズ2 | 写真・映像 | リアルなポルノグラフィ | ポルノ雑誌 ポルノ映画 | 使う |
フェーズ3 | デジタル映像 | 実践行為含むポルノグラフィ | AV サイバーポルノ | 使う |
<フェーズ3の発生要因>
- 消費の場のプライベート化=映画館から家庭・個人へ(監視の目が無くなる)。
- 制作者の専門化=大手映画会社からポルノ専門のAV制作会社へ・
- 規制緩和=ポルノ氾濫に押され、「わいせつ物規制」が緩和され「薄消し」で可となった結果、疑似性交ではなく実際の性交が行われるようになった。
*「黒塗り」などの修正は、「疑似性交」を可能とし女性の「性と生殖の権利」を水際で確保していた。
<AVによる被害>
被 害 | 内 容 | |
制作 被害 | ポルノへの 強制出演 | 脅されたり騙されたりして、出演や演技を強制される被害 |
ポルノを通じた 名誉棄損 | 本人特定が可能なポルノグラフィが本人の許可なく使用されることを通じて、名誉を棄損される被害 | |
消費 被害 | ポルノの強要 | ポルノグラフィの視聴や模倣行為を強要される被害 |
ポルノによる 暴行脅迫 | ポルノグラフィが直接の原因となった暴行脅迫を受ける被害 | |
社会的被害 | ポルノによる 性被害 | ポルノグラフィが広く流通することによって、性的欲望のはけ口として全ての女性が受ける差別被害 |
*ポルノ被害調査(「ポルノ・買春問題研究会」=APPアンケート調査)によると被害のトップは「ポルノ視聴の強制」32.5%、次いで「ポルノ模倣行為の強要}29.7%となっています。
*APP調査では、DVとしてのポルノ被害が明らかとなった。
「ビデオと同様、両手を縛られたり.嫌がると殴られたりしてアザを創る」
「革ベルトでたたかれ、木製ペニスを挿入され、そこを蹴られる」
「こぶしの挿入」
「顔面への射精」
「複数の男性による同時性行為の強要」
「外を裸で歩くよう強制」
「夫の目の前で尿をする行為を強要」
<APPによる被害類型の精緻化>
*「流通被害」と「存在被害」の深刻化
流通 被害 | 制作被害物が頒布される | |
不同意頒布 | 撮影時同意、その後同意なしに流通・頒布される | |
撮影時同意、その後同意を撤回したのに流通・頒布される | ||
合成写真によるポルノ画像を流通・頒布される | ||
存在 被害 | 制作被害を伴って制作されたものが、誰かの観賞用として存在し続けることで被害者の恐怖心や恥辱感が持続する | |
作品を悪用されて脅迫されたり、嫌がらせを受けたりする |
*「制作被害」「流通被害」「消費被害」の同時発生(撮影と同時にネット配信)
制作 被害 | 商業ポルノの制作過程で生じる被害 | 暴行・脅迫・監禁などにより性行為を強制的に撮影される | |
不当な違約金・心理的圧迫・恋人や近親者の誘導・権力関係の濫用など拒否できない状況下で撮影される | |||
同意や契約の水準を超えた行為を強制される | |||
出演者の人格・安全・衛生などを著しく侵害する行為をさせる | |||
それ以外の制作被害 | 実際の性的暴行被害に遭い、それを写真やビデオに撮られる | ||
夫や父親、恋人によって性的姿態や性行為を撮影される | |||
自己の性的姿態や性行為を盗撮される | |||
だましや脅迫により、自己の性的姿態を撮って送るよう強制される | |||
消費 被害 | ポルノの押し付け | 家庭や職場などでポルノの視聴を強制される | |
主に家庭でポルノと同じ行為を強制される | |||
ポルノの影響を受けたものから性的暴行などを受ける | |||
社会的被害 | 暴力的なポルノが蔓延し、それを目撃することで精神的苦痛などの被害を受ける | ||
ポルノが蔓延することで女性蔑視が強まり、女性の地位が低下し、両性間の不平等が増大 |
<包括的なポルノ被害防止法>
1)制作被害
・実際の性交の禁止
・生命・身体に重大な危険を及ぼす行為の禁止
・心身の安全・健康に影響を及ぼす行為の禁止
2)流通被害
・出演者の権利侵害によって製作されたAVの販売差し止め
3)消費被害
・AV視聴・模倣行為の強要は、強要罪、強制性交・強制わいせつ罪
・AVメーカーの「製造物責任」:特定のAV視聴後にAV内の特殊な性行為や虐待行為を強要された場合、AVメーカーの製造物責任を問えるようにする。
●すさまじい被害の状況に圧倒されました。AVの影響は制作・消費などの場面で、社会を暴力的にあおっていることを実感しました。
また「知事の行為が人権侵害であるという認識を広げることは、容易ではないだろう」という講師の見解も示されました。それは講師のこれまでのパップスの運動などの経験から出てきた言葉でした。
日本では「浮気は男の甲斐性」的な感覚や「男の優位は当たり前」という受け止め方は古くからあります。
私たちは「浮気」を故として、知事の責任を問うているわけではありませんが、知事のメールやAVにかかる女性への押しつけを人権侵害と認める人は、そう多くはないだろうという指摘です。
その指摘には、一定頷ける経験もあります。そこで思ったのは、そうか、この間の私たちの取り組みは「社会の認識を変える取り組み」かと思い至りました。
実に貴重な学びの場でした。 (2023.11.16)