●「菅前首相が県立瀬谷西高校で講演」と県教委高校教育課長から報せを受けたのが、5月31日。
私は耳を疑いました。「エッ!政権与党が単独で高校生に講演? そりゃおかしいでしょ」と早速関係者に連絡をしました。大山議員の手も借りて。「何とか止めなくちゃ。教育界に悪しき前例を神奈川でつくったら大変」という思いでした。
●教育委員会は記者発表もしていましたから、翌日6月1日神奈川新聞がその事を報じました。県議団からの発信と新聞報道により多くの市民の方が、この異常事態に声を上げてくれました。
8日までに、学校と教育委員会それぞれに約130件(応援もわずかにあったという事ですが)の電話やファクス、さらに教育委員会には10件以上の文書による申し入れが寄せられたとのことです。反響の大きさが伺えます。県議団には他県からの電話もありました「こんな前例つくられちゃ、大阪もさらに大変なことになる!」という内容を初めとして。
●県議団としても、6月2日には県教育長に「県立瀬谷西高等学校における菅義偉前首相による生徒向け政治参加講演会企画に対し見直しを求める要請」(添付)を申し入れ、強く中止を求めました。
それに先立ち私は、事実関係の聞き取りを2度行っています。あらましは次の通り。
*瀬谷西高校は、今年度で瀬谷高校と統合になる。その記念行事として、3年生対象の今回の講演を企画。
*2027年開催予定の「横浜国際園芸博覧会」(上瀬谷通信基地跡地)にかかわる取り組みとして、シチズンシップ教育を行う。
*瀬谷区の県議と相談する中で、構想と講師が決まった。
*教育委員会は、公示前という時期の点に懸念はあったが、内容的には問題ないと考えている。
●私は話を聞き直感的に、このやり方では教育の公正性が侵されると感じたのですが、教育基本法14条は「良識ある公民として必要な政治的教養は、教育上尊重されなければならない」とし、2項で「法律に定める学校は、特定の政党を支持し、またはこれに反対するための政治教育その他政治的活動をしてはならない」としています。私達は、要請においてもこの点を質していますが、教育委員会は「テーマが限定されているからその心配はない」との認識を変えてはいません。
文科省・平成27年10月29日付通知は「生徒の考えや議論が深まるよう様々な見解を提示すること」を求めていますし、これを持ち出さないまでも、特定政党のみの講演を県立高校で行うというのはやはり不適切であり、政治家の講演を学校で行う場合は複数の政党を招くべきという意見は、多くの人から語られています。
●このようなやり取りの中で、8日には、県教委から「菅前首相のスケジュールの都合で講演は中止となった」との連絡が入りました。「スケジュールの都合とは、それが本当なら失礼な話だ」と思いながら、私はまた関係者に連絡をしました。
ホッとしたとの感想が寄せられました。それはその通りなのですが、懸念は残ります。
●その懸念の一つは、学校と教育委員会の認識不足です。教育基本法の制定に関わった田中二郎東大教授は「戦争をするために教育を利用した誤りを2度と繰り返さないために新しい理念と方針に変える」と教育基本法制定の意義を語っています。この背景などは、もはや忘れられているのでしょうか。
この点については引き続く大きな課題です。
懸念の2つ目はメディアの受け止めです。
5月31日の記者発表を取り上げたのは神奈川新聞のみ。6月2日の共産党県議団要請には4社の記者が来ていたのにも拘らず、報道したのは「赤旗」と「神奈川新聞」のみ。神奈川新聞は3日付社説でも、「中立性逸脱、中止を求める」と指摘しました。赤旗も6月8日付で批判の広がりを伝えました。
中止が決まってから、ようやく朝日と東京新聞が報じましたが、淡々とした報道ぶり。朝日などは、単なる広報という感じでした。
マスコミ全体としての反応の鈍さは、政権などへの「忖度」の故か、あるいは「危ない」と捉える感性がマヒした結果なのか、いずれにしろ恐ろしさを覚えます。
懸念の3つ目は、教師の受け止めです。
教育関係者や市民団体は敏感に受け止め、かつ素早い行動を展開しました。でも当該の学校の先生たちはどのようにこの経過を受け止めていたのでしょうか。
職員会議はもはや会議とは言えず、単なる伝達の場だというお話を複数で聞いています。おかしいと思っても言えなかったのか、もしくは、おかしいとも追わなかったか。気がかりなところです。
この間代表質問の準備もあり、把握できていませんが、教職員組合もどのように受け止め動いていたのでしょうか。
更に保護者や生徒たちは、なぜ反対されているのかもわからずに、邪魔されたとの受け止めの方もいらっしゃるだろうと思います。
教育が、歴史の教訓を踏まえ民主主義を体現していなければ、私達の社会はまた危うい道をたどるかもしれません。警鐘を鳴らすべきメディアも押し黙っているとなればその懸念は増すばかり。(2022.6.8)