●横浜・川崎・相模原市が「特別自治市構想」を提案しています。この構想は、現行の指定都市が道府県から実質的に独立し、道府県の権限・税財源を含め一元的に管理する「特別自治市」を制度化しようとするものです。
この動きに対して、県は昨年6月から「特別自治市等大都市制度に関する研究会」を開催し、11月に提言をまとめています。その内容を紹介します。
▼神奈川県における地方自治
広域自治体の役割は、広域にわたるもの、市町村に関する連絡調整に関するもの、及びその規模または性質において一般の市町村が処理することが適当でないと認められるものを処理する(地方自治法第2条第5項)。
県内には指定都市(横浜市・川崎市・相模原市)、中核市(横須賀市)施行時特例市(平塚市・小田原市・茅ケ崎市・厚木市・大和市)等の大都市があり、多くの事務・権限を、広域自治体である県から、基礎自治体である市町村に対し移譲している。
▼「特別自治市構想」の概要
広域自治体(道府県)に包含されない一層制の地方公共団体に移行する「特別自治市」の法制度化。
現行の指定都市が担う事務に加え、道府県が担ってきた事務を処理する。市域内の地方税は、現在の道府県税も含めて、特別自治市が一元的に徴収する。
▼「特別自治市構想」の法制度化をめざす理由
道府県と指定都市の「二重行政」や、大都市特例事務に関する「税制上の不十分な措置」を挙げ、二層制の地方自治構造では、役割発揮が充分にはできないとし、いわゆる「都構想」に加え特別自治市の法制度化が必要であるとする。
▼ 法制度化をめざす理由については、以下の点で合理性が無い。
(1)二重行政としている点は、法令によるものや住民ニーズに基づくものであり必要。また同種の施設等であっても、それぞれ役割分担している。さらに状況に応じ権限移譲も実施している。
(2)この構想が主張する「地方財源の不足」は地方税財政政全体の課題であり、道府県と指定都市間の問題ではない。
▼ 特別自治市構想の課題・懸念(第30次地方制度調査会において示されたもの)
(1)内部構造として、住民代表機能を持つ区が必要
(2)特別自治市とそれ以外の区域に分割することは、警察事務とりわけ広域犯罪などの対応が懸念される。
(3)特別自治市が全ての道府県税・市町村税を賦課徴収することは、周辺自治体に対する道府県の行政サービス低下をもたらす。
▼構想における課題(地方制度調査会の議論等を踏まえ、神奈川県として整理)
(1)県が果たしてきた総合調整機能に支障が生じる恐れ。(例えば、コロナ禍における県内全体の入院・搬送調整)
(2)財政面でも、県内全域で現行水準の行政サービスが提供できなくなる恐れ。(道府県税収入は、域内における幅広い行政サービスを提供するために活用するもの)
(3)県民・市民に大きな費用負担が生じる。(現在、指定都市域内にある県有施設は717施設、財産価格は1兆465億円。特別自治市になった場合、市には県有施設等の移管費用及び債務の引き受け等が発生。逆に現在の県機関・施設は域外に移転を余儀なくされる)
(4)住民代表機能への影響
(特別自治市は、道府県と指定都市の権限と税財源を併せ持つ巨大な自治体でありながら、一人の市長と市議会のみで地方自治を行うことになり、広域自治体選挙への参加の機会を失う。また、国会議員の議席数も、県と特別自治市に分割され、国政における発信力低下の恐れも)
.▼今後 特別自治市構想の法制度化について
この構想は県民生活に大きな影響を及ぼす恐れがあるため、法制度化は妥当ではないと考えている。
今後、指定都市と一層の協調連携を図り、現行制度の下でしっかりと取り組んで行く。また現行制度で解決できない課題が生じた場合には、真摯に議論を深めていく。
●神奈川県の見解はおおむね妥当なものだと思います。
「特別自治市構想」は、税の捉え方において短絡的であり、二重行政の捉え方においては表面的だと思います。県はそれらに対して、具体的に問題点を把握し、批判していると思います。
この冷静な判断を評価しつつ、その言葉の通り神奈川県として、自治体の役割をより発揮することを求めて行きたいと思います。(2022.4.11)