●川崎市の台風被害とその対応についての検証とともに、住民避難のあり方についても中村八郎氏は、次の項目にわたり検証を加えています。
- 市の避難対策は、住民に安心・安全な場所を提供する考え方(行政責任)が弱い。
- 市の避難勧告等の避難情報の発令は、住民の立場・心情を考慮していない。
- 「避難行動要支援者」は大きな課題だが、住民任せになっている。
- 市の指定避難所は、場所の適否・環境・支援体制などに問題が残る。
- 今後、「スフィア基準」を目標に置き、生活環境・支援体制を整備する必要がある。「救助・救援は被災者の権利である」ことを据えるべき。
- 新型コロナ含む感染症対策は、受け入れ時の対応、専門的支援体制が重要。
●1.については、市民向けハザードマップでは「近隣の安全な場所や堅牢な建物へ移動しましょう」となっており、「避難所」が明記されていないことを問題としています。
・集合住宅の上層階を想定した場合、上部には通常集会室などはなく、個別の家庭に避難することは、現実的ではない。
・更に想定を上回る被害になった場合、垂直避難によって上層に取り残された住民は膨大な要救助者となる。
・ハザードマップには「一週間程度の備蓄」を謳っているが、その間、上層階での生活は困難。一刻も早く避難所を提供すべき。
・対策としては、上層に避難スペースを確保。
●2.に関わっては、台風19号における市の避難勧告等の指示は遅すぎたと指摘しています。指定避難所開設等の体制が整わなかった為か、「避難準備・高齢者等避難開始」発令のタイミングを逸し、一気に避難勧告の発令に至ったと。
●3.に関わっては、台風19号についてのアンケート結果をもとに、避難行動要支援者への避難支援がいかに難しいか、意識や訓練だけではカバーできないとしています。
「十分な支援関係者の要員確保」「要支援者と支援者との信頼関係づくり」「時間的余裕を持った発令」などが求められますが、無秩序な都市づくりが災害に脆弱な地域を形成し、貧困な高齢者福祉政策が在宅介護者を増やしていると指摘しています。
「共助」丸投げではなく、行政と地域社会が検討重ね、地域ごとに現実的な方策を見出していく必要があるとしています。
●4.について、日本の避難場所の現状は、背景として学校等を安易に避難所に転用し、避難所向けの施設・設備の改善を行わないまま集団共同生活を当然としてきたことにあると分析。
また、既存施設を避難所として転用し、一時的避難場所との混同があったり、避難生活向けの施設整備が遅れていた事を指摘し、施設面の整備と充実したサポート体制が必要としています。
●5.については、避難場所・水・食料・衣服・生活のための衛生・健康を維持する機能などの最低基準としてスフィア基準があり、この基準の要は、「支援は政府の義務であり、被災者は支援を受ける権利がある」という点。
台風19号の際には、一時避難で済んだことから問題は顕在化しなかったが、スフィア基準に照らせば大きく立ち遅れていると指摘。
●6.については、第一に受け入れの際のチェック(名簿作成・検温・体調申告)、感染の疑いのある人のための隔離待機場所、陽性者搬送先の確保、第二に避難所空間の整備、第三に、施設内の公衆衛生、避難者への適切な医療措置などが必要としています。
<空間の確保という点では>公立学校や公共施設、企業の研修施設や屋内スポーツ施設、私立学校等の利用まで視野に入れることを指摘し、<環境づくり・支援体制の点では>「避難所の管理・運営構想」を作成し、地域の医師会、介護業界、飲食店業界などに災害時協力を呼びかけることを提案しています。
●前半の水害対策と同様、住民避難のあり方についても、「無秩序な都市づくりが災害に脆弱な地域を形成し、貧困な高齢者福祉政策が在宅介護者を増やしている」との指摘が印象的でした。
都市づくりや福祉政策は、私たちの暮らしの土台をなすという事ですね。「コロナ禍で浮き彫りになる医療や公衆衛生の脆弱さ」と、私は何度も実感を持って語っていますが、それと同じことが自然災害でも試されているのです。(2020.11.15)