●総研セミナーにおける小栗さんのお話の続きです。
●人権が大きなカギ
グローバル企業の社会的責任を強化する取り組みで、大きなカギとなるのが人権です。国連人権理事会で、条約化の作業が進められています。またそれに先立ち法制化している国もあります。国連人権指導原則を作成したジョン・ラギー氏は、「企業が人権を守るかどうかが企業とマーケットが社会において持続可能となるかどうかの岐路」と述べています。
●資本主義の変化
▼1990年代の変化:ソ連崩壊後、資本主義の全面化。
▼2000年からの変化:グローバル資本主義の自己否定の始まり。
・ビジネスと人権の指導原則(資本に対する法的改革の始まり)
・リーマンショック(金融資本主義の自己否定の始まり)
▼2015年からの変化(資本主義の矛盾の激化)
SDGs(持続可能な開発目標)・ESG(環境・社会・ガバナンス)・パリ協定 (気候変動)による資本主義改革の始まり。
▼2020年コロナパンデミック(自然と人間の物質代謝の危機)
・環境破壊がもたらす新たな細菌・ウイルスの感染リスク増大。
・ポストコロナにおいて、改めて経済と社会のあり方が問われる。
●日本資本主義の現段階
▼2000年以降、人件費削減と法人税減税による内部留保の激増。
▼2001年が一人当たり人件費と設備投資のピーク。以降低下し続ける。
設備投資から金融・海外子会社投資へのシフト。
▼海外市場依存、インバウンドによる国内需要などは、コロナパンデミックの中で破綻。
▼世界の変化に遅れをとる日本経済。
・人材育成の遅れ(能力開発費用GDP比率 アメリカ2%超、日本0.1%)
・教育支出はOECD諸国で最低
・研究開発費、先進諸国で最低水準
・人権・気候変動への対応の遅れ
・SDGs(持続可能な開発目標)・ESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組みの遅れ(SDGsをSocity5.0に矮小化)
●新たな資本主義をめぐる議論
▼2020年世界経済フォーラム(ダボス会議)
・ステークホルダー(利害関係者)資本主義を提起。
・従業員とすべてのステ-クホルダーの利益の考慮を提案。
▼ステークホルダー資本主義は可能か。
・イギリスでは会社法改定:従業員の声を反映させる方策を上場企業に義務付け。
・アメリカ、サンダーズ大統領候補:取締役の45%を従業員から選出。
・フランス、従業員代表を取締役に選出。
▼SDGs達成のための指標
・経済領域:全てのステ-クホルダーへの付加価値の分配
・社会領域:企業内が社会的で公正な環境になっているか
・環境領域:パリ協定 (気候変動)などの基準に基づく開示を要求
・制度領域:ガバナンス組織における女性の割合などの情報を開示
▼人権の法制化:デューデリジェンス(適正な対応を行う義務)法制定が重要
●企業を変えていくことは可能か
マルクス理論の現代的意義として機能資本家に着目しています。
▼機能資本家とは:本質は資本の非所有者として想定。生産課程内で活動。
▼機能資本家の機能は限りなく資本所有から分離。
▼変革可能な株式会社:労働者によって協同的に運営されるようになれば、労働者が実質的に会社を所有し、社会的に機能させることが可能となる(マルクス)。
▼「株式会社の資本性を抑え込み、社会的存在へと変えていくことが変革的な課題」「株式会社を資本の側と社会の側のどちらのものとするかという対立をめぐる綱引きが長期にわたって行われる」(小栗2016)
▼企業の社会的責任を問い企業を変えていくことは、単なるスローガンではなく、株式会社を社会的・公共的存在に変えていくための正当な要求。
●おわりに―社会運動の課題
▼企業を変えていく
・資本主義の変化の中で、企業を変えていくことが可能な段階となった。
・運動の側に対抗力とともに構想力・提案力が求められている。
・企業内と社会の側の力が必要。
▼課題は
・新自由主義からの脱却。
・SDGs(持続可能な開発目標)・ESG(環境・社会・ガバナンス)・人権を社会運動の側が武器にする。
・付加価値を高めることを提起。
・労働者の能力を高める教育・訓練を要求。(付加価値の源泉は労働者の知識・能力)
・ジェンダー平等を追求する。
・従業員の声を活かすシステムの提案。
・地域の団体等との協議の場を提案。
●駆け足で紹介してきましたが、企業をめぐる認識の国際的な進化、企業を変えていくための提案などは、現在の日本の壊滅的な状況に光を与えてくれます。
お話のポイント毎に、具体的な情景が浮かびました。
「日本が世界に遅れをとる人材育成」で使い捨てられる労働者の言葉には、今まさにコロナ禍の下、解雇や休業で貧困にあえぐ人たちを思い浮かべました。
「企業の社会的な責任を問い、企業を変えていくことは正当な要求」というくだりでは、9月の代表質問でJFEの責任を問いかけたことが浮かびます。
大局的な学びが新鮮でした。(2020.10.10)