●映画「タクシー運転手」で、強く私の心を捉えた「光州事件」。この事件を取り上げたNHKBSプレミアム「アナザーストーリー」を観ました。「韓国・隠された市街戦、市民たちは軍と戦った」がタイトルです。
●1963年以来、朴正煕大統領の下で繰り広げられた独裁政権。その厳しい統制の下でも、民主化運動は粘り強く続いて、1979年朴大統領が暗殺された後には、民主化が花開く「ソウルの春」が訪れます。
しかし、全斗煥が実権握った新軍部は、1980年5月17日全国に戒厳令を布告します。
光州では18日、戒厳令に反対する学生の大規模なデモに対し、戒厳軍が襲いかかります。
●「アナザーストーリー」は、5月18日からの日々を追います。
4日目の5月21日には、それまでの催涙弾や警棒による暴力にとどまらず、空挺部隊が、市民・学生に対して実弾射撃を開始します。愛国歌が流れ、終わったとたんに軍の一斉射撃が始まり、それは10分も続いたといいます。
「タクシー運転手」でも執拗な射撃が描かれていました。撃たれ倒れている人が救助の人に引きずられて行く、その傷を負った人にさらに銃弾を浴びせていました。デモを抑えるためではなく、せん滅の対象なのだと思いました。
軍隊は国民を守らないといいますが、それだけではなく国民に銃を撃ち続けるのです。
映画だからではなく、当時のフィルムは屍が続く様を映し出していました。そのあと軍は、証拠を消すために次々と死体を埋めた、という証言もありました。多くの「行方不明者」はその結果かと私は思いました。
市民も全羅南道道庁を拠点として抵抗しますが、ついに27日には戒厳軍に制圧されます。
●その時期に、徴兵制により軍隊にいたイ・キョンナム氏は、「その場にいなかった人には絶対にわからない。本当に怖かった」と語ります。氏は、市民に向かって銃を撃つことがどうしてもできず、建物の中に逃げ込み、気を失ってしまったそうです。
●銃弾に倒れたイ・ハンニョル氏のお母さんの証言もありました。「時間は解決しない。時間が経てば経つほど悔しい」と。「大事な思いを貫くために、デモに加わることは認めていました」とも。でも身を案じて、先頭には決して立つなといっていたそうです。
でも、息子は先頭に立って闘い、銃に倒れました。民主化宣言がなされた1987年にようやく行われたイ・ハンニョル氏の葬儀には、100万人の人々が参列しました。
(光州事件の7年後に行われた、犠牲者のイ・ハンニョル氏の葬儀)
●光州事件を体験した人が、その思いを抱きながら、キャンドルデモに多く参加していたといいます。
2016年10月から、翌年3月まで続いたキャンドルデモは、朴槿恵大統領を罷免し、文在寅大統領を誕生させました。
粘り強く続けられ、かつ最高時232万人が参加したキャンドルデモの力に驚嘆していました。その力はどこから、と探っていた私ですが、光州事件から脈々と続く「民主主義と自由への渇望」があったのですね。
光州事件に伴う非常戒厳令により、予備検束の対象となった文大統領は司法試験の合格通知を拘置所で受け取ったそうです。この大統領の下で歴史的な南北会談が行われ、朝鮮半島の非核化に踏み出しています。(2018.6.12)