●2023年5月稲田小学校で、プール6杯分の水を流出させた事故がありました。これについて川崎市教育委員会は、損害額の半額95万0312円を当番だった教師と校長に損害賠償請求しました。
これを巡り賠償請求を不当とする声が、教員・市民などから相次ぎました。
取り扱いマニュアルの周知が極めて不十分であった、注水とともに警報音が鳴り(マニュアル通りの操作によると警報音が鳴る)、それを止めるためにブレーカーを落としたことにより止水が機能しなかった等、止水を確認しなかったという過失は認められるものの、故意や重過失ではないという判断が多くの方の受け止めでした。
使用者たる川崎市や教育委員会にその責任があるのに、一労働者である教員にあまりにも過大な負担を負わせるとして、川崎労働組合総連合(川崎労連)も市教委に対し賠償請求の撤回を求めていましたが、撤回せずの回答でした。今年に入って6月には市議会にも同内容の請願を提出しましたが、賛成は共産党のみで不採択となりました。
●この経過の中で文科省は、「令和6年7月10日付文部科学省通知『学校における働き方改革に配慮した学校プールの管理の在り方について(依頼)』」を発出。そこには「教師が損害賠償の責を負う恐れもある中で勤務する状況は好ましくありません」と明記し、「学校プールの維持管理に関する教師等の負担軽減を図り、今後損害賠償請求を一律に行うのではなく、本件に係る損害賠償責任が特定の教師等に生じることのないよう、積極的な取り組みをご検討いただくようお願いします」としています。
●この通達の主旨と川崎市教委とのやり取りの確認のために、川崎労連は12月6日文科省に対してのヒヤリングを実施。はたの君枝元衆議院議員、片柳前川崎市議とともに私も同席しました(川崎市会議員は議会中で不参加)。
●以下そのやり取り。
1 通知を出した理由とその趣旨
<回 答>教師の働き方改革が問われている中で、プール管理の負担が重い。この状況を踏まえ、教師の負担軽減を図りたい。
2 通知を巡り、川崎市とどのようなやり取りをしているのか。
<回 答>賠償請求をすべてダメと言っている訳ではないとの確認はしている。
参考;市は次のように説明。
通知で「損害賠償請求を一律に行うのではなく」とされているが、これは賠償請求してはならないという趣旨ではなく、単に他の自治体に倣って請求するのではなく、事案に応じて判断するべきであるという趣旨であることを、文部科学省に確認しております。
●2については、川崎市の説明もこの部分に限って言えば、どの立場からも否定するものではありません。ただし主眼はそこにあるのではないと思います。
主眼は、今回の事例を生み出してしまった不本意な状況が存在していること、今後はこのような事態を生み出さない環境を整えること、敢えてこのタイミングで発出したのは、個人への賠償請求には慎重であること、この3点ではないでしょうか。
●私が「過去にこのような文書を出したことはあるか」と問うと「今回初めてです」と答えています。川崎市の事態を受けての文書発出であることは状況と文書内容が物語っているといえます。
「文科省は直接指導する立場にはない」といって、川崎市教委の解釈への直接的な言及を避けていましたが。
●また、処分の根拠として挙げている民法709条は、「故意または過失によって個人の権利または法律上保護される利益を侵害したものは、これによって生じた責任を賠償する責任を負う」としていますが、これについても私の指摘に同意しています。
「刑法などの罰則規定とは違い、一般的に物事の判断基準は法や判例だけではない。その時々の状況に照らしての行政としての妥当性や市民感情も判断の要素となる。今回は象徴的な例として「賠償に当てて」と市民からの募金も集まるほど、「個人への賠償請求は過酷」と多くの市民が受け止めている、これらが示すように過失があったことをもって賠償請求すべきというケースではない」という指摘です。
「今回の文書発出は現場にとって心強いものであり、感謝している。現場への応援となる。引き続き予算の確保・教師の正規採用など教育環境の整備に努めてほしい」と激励の言葉も述べてきました。(2024.12.6)