●「地域医療構想」なるものが闊歩(かっぽ)して、住民や医療関係者に不安を与えています。
昨年9月には、厚生労働省が「2025年に向けて役割・機能の再検証を要請する公立・公的医療機関等」を公表しています。
その中には神奈川県で10病院が名指しされています。県議団は、そのひとつ、川崎市立井田病院(川崎市中原区)の実態を伺うために、川崎市病院局を訪問しました。
●<再検証>
厚労省の公表を受けて、神奈川県から再検証を依頼され、市病院局はおよそ次のような内容をまとめています。
井田病院には、川崎南部医療圏・川崎北部医療圏・横浜医療圏から3:4:3の割合で利用者が訪れています。これらの医療圏は、何れも人口ピークは15~40年後。病床稼働率も2018年度83.5%、2019年度上期86.8%であり、今後も需要が見込まれます。
そんな中でも、2016年度には、急性期病床45床を回復期に転換、地域包括ケア病棟を整備するなどの努力を重ねています。また2017年度には、脳神経外科・呼吸器外科入院診療を市立川崎病院に集約、血液内科入院診療も同様の集約を予定しています。昨年度は、在宅療養後方支援病院の届出も行っています。
<地域の医療を担うために>
*救急告示病院として、誤嚥性肺炎や尿路感染症など、入院期間が長期化し採算がとりにくいとされる患者の積極的な受け入れ。
*地域がん診療連携拠点病院として同一圏拠点病院と連携・役割分担をしながら地域のがん医療水準の向上に貢献。
*災害協力病院として、昨年の台風19号など、高台に立地という利点を生かし活躍(これは通院の大変さとともに、水害時には強み!)。
<結論>
このように、地域的需要も増加し、地域の中核病院として重要な役割を担っている事から、今回の厚生労働省の要請に伴う「対応方針の見直し」は行わないと結論付けています。
●井田病院は、一般病床343床(高度急性期8床・急性期病床290床・回復期45床)、結核病床45床を擁しています。
特徴としては、再検証の中で上げた三点に加えて、結核病床については市内唯一です。
また、臨床研修指定病院として医師の育成も担っています。
今後、地域包括ケアシステムの構築も視野に入れるとしています。また高度な治療・検査などにおいても地域連携を推進するとしています。
●神奈川県の担当者も、私の特別委員会質問で、「実態を踏まえるならば削減の余地はない」としていましたが、川崎市も同様に、地域の中で果たすべき役割をしっかりと見据え、とても頼もしく感じられました。
それぞれの自治体や公立病院等が、住民の期待を受け奮闘し、今後の在りようも見通す努力をしている中で、厚労省の地域医療構想は、私には医療の妨害者に見えてしまいます。
国が、医療費の抑制に躍起になり、地域に病床数削減を求めなくても、人口の推移や、地域の事情は、誰よりも当事者がよくわかっています。まして経営上の判断をせざるを得ない時があることもわかっていると思います。
●国から求められることと、医療機関として地域で果たすべき役割とのはざまで関係者が苦慮しています。
神奈川県も川崎市も、全体として人口増加地域ですから、「削減」をはねかえすことが比較的容易ですが、他の人口減少を抱える地域はどんなに苦労されているかと胸が痛みます。
このような地域で、病床数削減や統廃合を余儀なくされれば、地域住民は医療から遠ざけられ、さらなる人口減少にもつながります。
●国は、利用率などを振りかざし削減を求めるのではなく、採算性に左右されないセーフティネットの構築をこそ考えるべきです。
特に現在は、感染症対策が切実な課題となり、病院の体制強化が求められています。受け入れ指定病院だけでは足りないとの指摘もある中で、ぎりぎりまで病床数を削減せよと迫る国の姿勢は、国民の命を脅かすものになりかねません。(2020.2.6)