●再び藤井英二郎(千葉大学名誉教授)さんに樹冠被覆率のお話を伺いました。
▲これまでのCO2排出を続けると、今世紀末の平均気温は2.6℃~4.8℃上昇。排出量を減らしたとしても、0.3℃~1.7℃の上昇は避けられず。
▲ニューヨーク・パリに比べて東京の気温上昇が激しい。ヒートアイランド緩和には、舗装面の樹冠被覆、地表植物・土壌面・水面確保が重要。
▲樹冠被覆率(一定の土地面積に占める樹幹で覆われた面積率)を30%にすれば、暑さ起因死者数を約40%減らすことが可能。
*メルボルン:現状22%→ 2040年までに40%に
*リヨン・メトロポール:樹木憲章を定め、現状27%を2030年までに30%をめざす
*アメリカ:多くの都市の樹冠被覆率を公開
*東京:2013年9.2%→ 2022年7.3%
*日本には道路緑化基準はあるが、ヒートアイランドに対する視点は欠如
▲リヨンの取り組み
*1990年から枝を伸ばす樹形に切り替え
*車線を減らして植樹帯化
*猛暑対策として暑さに強いエノキへの転換、幹を守るつる植物
▲ナント(仏)の取り組み
*樹木によって見通しを悪くし、あえてスピードを落とさせる
*公園内に菜園とベンチ
*雨水浸透・貯留地帯設置
*トラム横に木立を
*既存樹木の植栽基盤確保と根元保護
▲日本の強剪定の弊害
*樹勢の劣化
*上を切ってしまった結果胴吹き(幹下部から枝が出てくる)が多数発生
*枝先の切りつめ選定により、木全体に胴吹きが発生、樹勢悪化
*強剪定は太根の発達を阻害、倒伏しやすくなる
▲強剪定の背景
*適切な剪定方法が発注されていない
▲その他の問題
*土壌容積が少ない(地上部と根の成長は土壌容積に規定される)
*不要な支柱が放置され、スチール製支柱の幹への食い込みなど樹木を傷つけている
*金属製地下支柱による幹と根の損傷・腐朽
▲温暖化に対応するための街路樹育成方法
*樹冠上部と車道側・縦断方向へ枝を伸ばす
*樹高は抑制しない。架空線がある場合は離隔を確保
*埋設管工事等による根の損傷を最小限に抑える
*不必要な切りつめ選定をやめ、枯れ枝・衰弱枝のみ剪定(仙台市青葉区のケヤキ管理)
▲樹種選定課題
*樹高が高くならず、成長が遅く、落ち葉苦情がなく等の管理費がかからない樹種を選ぶ傾向が全国で目立つが、これでは急激な温暖化やヒートアイランドに対応できない。
▲日本の街路樹管理の推移
*~1970年 直営管理
*1970年~ 技術職員+民間委託…発注者が選定方法を指示
↓
*技術職員の不補充…事務的発注
*担当者が苦情に専門的な対応ができず、苦情対応管理に陥る。過剰な安全志向による伐採。
▲望まれる街路樹管理体制
1.管理目標の明確化と共有
*樹冠被覆率の増大
*植栽基盤容量と土壌面の増大
2.街路樹管理体制
*専門職員が管理する体制の構築
*「みどりは市民の共有財産」意識の醸成
▲落ち葉への対応
*ナント市:落ち葉はみんなのもの。落ち葉を理由に剪定することはない。
*リヨン・メトロポール:学校などで意識改革を進めている。
*仙台市・名古屋市:落ち葉問題で剪定はしない
*田園調布:銀杏の落ち葉掃除は、田園調布会・沿道居住者・区で協力
*中野区:「中野区みどりの保護と育成に関する条例」で「落ち葉受忍」
▲川崎市街路樹管理計画
*現状の課題:
強剪定による樹勢悪化・倒木。
根上がりによる通行障害。
枝葉による見通し悪化や車との接触。
維持管理費抑制による剪定頻度減少が強剪定を招いている
*取り組みの方向性:
街路樹再生により安全な歩行空間確保。
街路樹台帳活用による適正管理。
強剪定の見直し。
●これ程合理的な話が、自治体や国の樹木管理になぜ反映されないのかと質問したところ、「短期間の異動」との回答。引継ぎ事項という扱いがあるはずなのに不思議。
ともあれ一刻も早く、樹木管理を切り替えて、強剪定や無駄な支柱や根元の圧迫など樹木を傷めつけることはやめてほしいものです。
ヒートアイランド対策は切実に求められていますし、みどりをたたえ豊かに広がる並木は人の気持ちを癒してくれます。ストレス度が全く違います。
川崎でも議会も市当局も、この課題を強力に位置付けてほしいと思います。(2025.9.7)