「リニア大深度と周辺工事の中止を求める首都圏ネット」が結成されました。
結成記念講演は「掘るのは怖い、乗るのも怖いリニア」。講師はトンネル施工技術者の大塚正幸氏。
<掘る怖さ>
◆流れる砂◆
日本は全国的に、上総層に覆われている。均等質の細砂粒で流れる砂と言われ、小さい砂質層では自立性が乏しい。南関東では流動性地山によるトラブルは多数起きている。
◆未解決の技術的課題は多い◆
トンネル内での保線・救援・過酷衝撃試験・地震応答など課題の所在さえわからないものがある。
86%がトンネルとなり、未公表のリスク(ウラン鉱・廃坑空洞・ガスの湧出等)が多く、掘ってみての対応となる。
◆大深度の山岳トンネルは超難工事◆
手探りの地質想定、高土圧のため切羽崩壊・膨張・山ハネ、大湧水(最大時毎秒3tの湧水。水抜き工事に9年を要した)
難工事とともに貴重生態系の喪失、河川枯渇・渇水(失われた水流は戻らない)
◆相次ぐシールド工事のトラブル◆
外環道事故は特殊な地盤と説明されているが、特殊ではない。どこでも起こりうる。
流動性地山では流砂の危険もある。
◆大深度・大断面シールドは技術限界◆
大深度は高い土水圧に対抗するため大きな推力が必要、さらに大断面においてはさらに大きな推力が必要。天端と底辺の圧力差が問題となる。過剰掘削も起きる。
固結していない地盤を、地盤支持力と深さだけで評価するのは非科学的。今回の世界最大級の大断面(16m)シールドの場合、トンネル上部に生ずる緩み領域は30mに及ぶ(支持地盤の厚さは10mで可とされているが)。トンネルを掘れば天井の岩盤は緩んで支持力が減るが、50mの圧力に耐えなければならない。
トンネルを掘る前の地盤と穴をあけた後の地盤は全く異なる。
<乗るのはもっと怖い>
◆担保されない運航の安全◆
*運転乗務員不在。
*トンネル内は修理の空間もない。
*万一の備えはストッパーとして作用するか。
*実験センターの実験では検証不可の事故(大型地震・トンネル内火災・落下障害物との衝突等)。
*検証の積み残し課題(クエンチ事故・トンネル内高速すれ違い実験・誘導集電実験)。
◆不便・不安◆
*孤立無援のシャトル便で乗り換え不可。
*大深度地下との昇降移動。
*昇降口は車両連接部に1か所のみ、かつ航空機並みの狭さ。
*解明されていない電磁波の健康被害。
*未経験な交通システム(保守・管理体制・故障からの脱出等)。
<その他不都合な事実>
◆遅れは全国で◆
2027年開業断念の公表で、静岡県に止まらない全国の工期の遅れが露呈。各県の駅開発構想も破綻。
◆建設費の膨張◆
*従来の計画から1・5兆円増え約7兆円に。
*まだまだ増える可能性(駅難工事・地震対策・土捨て等)。
*当初見積もり外の追加設備費(渇水対策・沿線環境対策・保守管理施設等)。
*減収続く東海道新幹線と工事費増、リニアはペイしない、財政破綻のつけは国民に(3兆円の無担保財政投融資は回収不能の危険性あり)。
◆交通政策審議会の怪◆
*リニアを整備新幹線に認定。
*建設と営業主体の一体承認。
*震災軽視の建設承認。
*南アルプスルート容認。
◆ご都合主義の法制適用(大深度法・アセス法の軽視)◆
◆ご都合主義の国策民営事業◆
*国策として事業は強行。
*民間事業守秘義務として説明責任は回避。
◆地震対策として機能するか◆
*リニアは物資を運べない。
*リニア沿線の大部分は震度6弱以上(東南海地震予測)。
*活断層横断ルートで予測されるトンネル破断と坑口崩壊。
◆エネルギー効率の悪さ◆
*従来新幹線の3~5倍とされるエネルギー消費に。
*モーター回転子を全線に敷設、変電所間隔に制約される硬直した運用に。
◆優位性はいずれに◆
*従来新幹線は360km/hまで高速化。
*次世代陸上高速ハイパーループ(真空チューブ鉄道)なら1000km/h。
<講演を聴いて>
これまで、自然破壊・乗車の危険性・エネルギー消費などはある程度認識していたものの、「工事のこわさ」がこれほどとは。
確かに山岳地帯や大深度の困難と危険は、計り知れません。自然に対しては敬意と畏怖を覚えるべきです。超難工事で労災はいかばかりかと…質問できなかったのですが。
適用面でのご都合主義とともに、なぜかくも無謀な工事を強行しようとしているのか、国家と大企業の闇を見る思いです。 更に詳しい資料や6市民団体による首都圏ネットの取り組みもたっぷりあるのですが、ボリュームの問題もあるので次の機会に。 (2024.7.6)