●私は、かながわ総研事務局に所属しています。
総研の総会が6月29日にあり、特別セミナーとして田代洋一横浜国立大学名誉教授を招き、「食料・農業・農村基本法改正で日本の食料自給率はどうなる」と題する講演を行いました。
●以下その内容です。
◆食料・農業・農村基本法は理念法。理念法の理念を実現するのは政治の力と国民の運動。その一環として「食料自給率の向上を明確化」することが必要。
◆農業白書に見る基本法改正の背景
①地政学リスクの高まり(ロシアのウクライナ侵略)→ 食料安全保障の必要性
②低所得層の増大、買い物困難者の増加 → 一人ひとりの食料安保が必要
③日本の経済的地位の低下、輸入リスク → 安定輸入が必要となる
④デフレ・安売り競争 → 合理的価格の形成が困難
⑤国際的には、環境負荷低減的な農業の主流化
⑥人口減少・国内市場の縮小 → 輸出で農業生産基盤を維持する必要も
⑦基盤的農業従事者の減少・高齢化 → スマート農業の要請
◆基本法改正の動き(自民党新農林族)
森山裕自民党食料安全保障検討委員長:「党主導で抜本的に見直す」「思い切った食糧安保予算の確保」「国家の最重要な安全保障施策の一つ」などの動きはありつつも、当初予算は増えていない、むしろ割合としてはマイナスという実態。
◆改正基本法の組み立て
①基本理念「食料安全保障の確保等の基本理念」(第一条) 「一人一人の食料安全保障(第二条)
②基本施策
・食料自給率は目標の「one of them」に格下げとなっている。
・食料不足対策として「安定輸入」を掲げる。
・農業の持続的発展に必要な策として、「多様な農業者」「スマート農業」で終わっている。
・改正基本法の課題として「環境への負荷の低減」
◆食料安全保障と食料自給率
・自給率向上は不可欠、国民的関心事でもある。
◆価格転嫁論ではなく
・審議会検証部会「適正な価格形成」が必要とされたが、法改正案では「合理的な価格」にすり替えられている。
・だが、「食料の持続的な供給」には「再生産可能な価格」(+労働費)が保障されるべき。
・生産者・消費者が納得できるのは価格転嫁ではなく政府の直接支払い。
・フランスでは、農業者の報酬保護のための法律において最賃制賃金を活用
◆基幹的農業従事者の推移
2000年240万人 → 2023年116万人 → さらに20年後30万人の予測
◆環境政策をめぐって
改正法「環境負荷の低減」自体は評価、だが具体策に欠ける
◆農村政策をめぐって
・2050年には3割の農地(125万ヘクタール)が存続危機集落に。
・「集落協定」「集落営農」等は広域化が必須。農村振興交付金が不可欠。
◆関連立法の必要性
・食料供給困難事態対策法
・農振法・農地法・基盤強化法等
◆食料自給率の向上に向けて
・人と農地の確保
・自治体等の支援強化
・農林予算の確保
・地産地消、国消国産(国民消費を国産で)
・これ以上メガFTA等で自由化を促進しない。
●体系的な整理はできていないのですが、およそのポイントと雰囲気は伝わるかと。
基本法に掲げられる言葉はなじみが少ないものも多いのですが、国の成り立ちを決定する基本的な問題ですから避けて通れません。このまま自民党農政に任せておいては、亡国への道だと思います。(2024.6.29)