●神奈川県教職員連絡協議会・横浜教職員の会が、「GIGAスクールって何のため? 誰のため?」を開催しました。
私は、一般質問でもとりあげ、この構想に教室を乗っ取られてはたまらないという思いでいましたから、講師のお話はもちろん、教室をめぐる状況を知りたいと思い参加しました。
講師は児美川孝一郎さん。法政大学キャリアデザイン学部教授です。
●これまでの教育をめぐるポイント
*2020年からの新指導要領が示される。
*2018年、Society5.0が示される。
*2019年度補正予算で、GIGAスクール構想が示される。
*コロナ禍の下で、ハイブリッド型の学び(オンライン授業と対面授業を組み合わせる)の提唱
Society5.0とは、第5期科学技術基本計画において、日本が目指すべき未来社会の姿として示されたもの。狩猟社会(Society1.0)、農耕社会(Society2.0)、工業社会(Society3.0)、情報社会(Society4.0)に続く新たな社会と位置づけ、サイバー(仮想)空間とフィジカル(現実)空間を高度に融合させるとする。
・・・まったくいい加減な規定ですね。社会の主要な生産様式になぞらえたと思えば、情報社会辺りから、社会の発展法則とは無関係な規定となり、Society5.0に至っては夢想に近い。(君嶋)
児美川さんは<怪しさ満載>とSociety5.0を評価します。
果たして新しい段階なのか、これによって社会的課題は解決するのか、と問題提起しています。貧困や格差は?紛争や対立は?非正規雇用は?と。
これまで以上に格差が拡大し、自己責任が強められるのでは?どこが人間中心の社会か?
●財界の要望受けた経産省に文科省が追随、総務省が一貫してICT機器整備で支えるという構図。
経産省の「未来の教室」事業
・・・なぜ経産省が教室を描く!?(君嶋)
*ICT活用による教科学習の「個別最適化」
*教科の中心はSTEAM(Science(科学), Technology(技術), Engineering(工学), Arts(芸術), Mathematics(数学))
・・・なぜ人文科学が一つも登場しない?(君嶋)
*公教育も民間教育もフラットな関係となり社会全体が「教室」。学校の教室空間で行われる必要はない。
*学力・学年・強化・時間数・卒業等の概念は希釈化。
文科省「新時代の学びを支える先端技術活用推進方策」
*多様な子供たちを「誰一人取り残すことのない、公正に個別最適化された学び」の実現
*ICTを基盤とした先端技術や教育ビックデータの効果的な活用に大きな可能性
*「社会全体が教室」「公教育も民間教育もフラットな関係」等、経産省と同様の文言が並びます。
・・・アー、文科省まで何言っているんだ!どこから「公正」が出てくるんだ!(君嶋)
教育再生実行会議も
「産学連携STEAM教育コンテンツのオンラインライブラリーを構築する」「Society5.0を生き抜くための力を育むことが求められています」等々。
・・・現実とかけ離れた言葉の羅列。Society5.0を時代の前提に置き換えている欺瞞(君嶋)
これらをまとめ上げたGIGAスクール構想が2019年12月に示されます。
*児童生徒一人一台コンピュータを実現(一台当たり4.5万円を補助)
*高速大容量の通信ネットワークを完備
*デジタル教科書・教材など良質なデジタルコンテンツの活用を促進
*ICT活用教育アドバイザーによる説明会・ワークショップ
*ICT支援員など、企業等の多様な外部人材の活用促進
コロナ禍の下で、GIGAスクール構想の前倒し
2020年度補正予算=一人一台端末の早期実現1951億円、緊急時における家庭でのオンライン学習環境の整備154億円、GIGAスクールサポーターの配置105億円等々。
経団連 Withコロナ時代の初等中等教育に求められる取り組み
*全国でリモート教育が実施可能な環境の緊急整備
*改定学習指導要領が目指す教育の実現
*ICTを活用した新しい教育様式に対応できる教員の養成
*9月入学に向けた考え方
・・・経団連が言うなー!という感じです。(君嶋)
中教審の議論
「個別最適化された学び」とともに、ここにきて「協働的な学び」が辛うじて付加されました。
児美川さんの主な指摘
*ICT教育にどう取り組むかは、GIGAスクールに拘泥されずに、じっくりと議論すべき。
*GIGAスクール構想で突き進むと
・学びが定型化され、やせ細り、協働・共同の学びの豊かさが損なわれる危険性
・多数の子どもたちは置き去りにされ、エリート層もひ弱にしか育たない。
・格差をさらに広げる「学びの自己責任化」
・公教育の解体
*Society5.0型教育の社会的支持基盤とどう向き合うか
●フーッ、「個別最適空間」とか「Society5.0」とか根拠のない言葉が続いて、書きながらいささかうんざり。
成り立ちが財界要望や景気対策ですから、現実の子どもの姿がさっぱり浮かび上がりません。また終始ICT機器がつくり出す世界を最大限持ち上げ、関係者が狂騒曲を奏でているような気さえしました。
経産省も文科省もよくこんな世界を描いたものだと思います。誰も異議を唱えなかったのでしょうか。
IT産業や教育産業は、新たな全国市場の展開に喜んでいる事でしょう。
また、学校関係の参加者からは、多忙で疲れ切った学校現場では、訳もわからずこれに巻き込まれていく可能性もあり、と。教師集団のプライド示してほしいものです。
●私は県議会で、GIGAスクール構想に教室を明け渡すのではなく、あくまでIT機器は一つのツールとして限定して用いよと求め、教育長も同意しました。
教育界の良識も試されます。(2021.3.7)